20世紀中盤の英国における社会福祉政策のスローガンに「ゆりかごから墓場まで(from the cradle to the grave)」というのがありました。
「ゆりかご=生まれて」から、「墓場=死ぬ」まで、国が福祉政策で国民を守るという意味に捉えられています。

私が設計事務所を始めて10年ほど経過した時、ある方から、設計の仕事はいつまで続けるんですか?と聞かれたことがあります。
景気も好調、仕事も好調。やめる意思は全くなく、冗談で口から出た言葉が、「ゆりかごから墓場まで」に引っ掛けて「犬小屋から墓場まで(from the doghouse to the grave)」かな?と応えました。建築の設計ですから、まずありえない2つの設計をあげて、ひらりと「かわした」つもりでした。

さて、今を遡ること15年ほど前、なんと「犬小屋」の設計が舞い込んで来ました。普通考える犬小屋は、下記の様な感じで、建築基準法や建築士法、都市計画法に抵触することはありませんから、日曜大工で済んでしまいます。まさかとは思われるでしょうが、その犬小屋は鉄骨構造3階建てです。

日本では結構高級な、ログハウス式犬小屋 こんな豪華な犬小屋もありますけど・・・


といっても、3階建ての3階部分が全て「お犬様」のお部屋で、1、2階はオーナーの住宅です。室内全面タイル張り(床と壁)、完全冷暖房付、床暖房完備、天窓から燦燦と日が差し込み(せまくて密集した敷地なので下の階の採光はあまり期待できません)、たぶんその家の中では最高の場所を陣取っているのですから、住宅の一部分と考えるには少し無理があります(笑)

そこには水浴びスペース(高級住宅ならジャグジーかな〜)、シャワースペース、食事室(コーナーかな)もあり、それは、それは高級な犬小屋です。
飼っているのは、トイプードル3匹。別にブリーダー(犬の繁殖をする職業)をしている訳ではありません。

さて、オーナーの生活と言えば、昼から夜まで、部屋の中央に置いたテーブルと大き目のゆったりした椅子でコーヒーを飲みながら犬と戯れる・・・という風景を想像してみれば理解していただけると思います。
犬にとっても人間にとっても、とても私には真似が出来ないくらいの贅沢だと感じました。そうそう、この部屋、役所への申請は、「居間」で申請しました。役所の方に、妙な顔をされた記憶が残っています。

最近でこそ、犬(猫)と一緒に暮らせる家がTV宣伝されますが、当時はそこまで「犬権(わんけん)」「猫権(にゃんけん)」は認められていませんでしたから、どんな部屋を作ればいいのか、かなり悩んだ記憶があります。
「犬権(わんけん)」「猫権(にゃんけん)」が、どの様に住宅を変えたかは、また別のチャンスにブログにアップします。

まさか、犬小屋に続いて墓の設計は無いでしょう・・・と思いきや、それから数年後。舞い込んできてしまいました。
ある、芸能関係の有名な方ですが、「親父の墓を移すので、墓の上に雨が当たらないように屋根を作ってくれ」という依頼でした。

天蓋とか東屋(あずまや)と呼ばれる物で、日本では滅多にお目にかかれません。ヨーロッパでは聖職者などの墓地などでは、時々見かけます。

なかなか画像も無くて・・・しょぼい画像ですみませんが

そこでは、鉄筋コンクリート製のドーム状の天蓋を設計させていただきました。通常の墓地の6区画を買い取っての大掛かりなお墓でした。それ以外に建築的なものといえば、墓の両脇に置く高さ1m程の「多宝塔」位ですが、これは石屋さんが作りました。

開業二十数年で、うっかり口にした冗談である私の目標?は見事に達成されてしまいました。
勿論、その後もひそかに(堂々と)設計の仕事は続けましたが・・・・