静まりかえった水面(みなも)に一滴の水滴が落ちた瞬間をイメージしてみてください。
水面に波紋が広がりますね。

波紋

ある日、新築間もないお施主さんからお電話を頂戴し、「お話したいこともありますので、我が家でお食事でもしませんか?」との内容です。
食べることには目がない私ですから、「お話したいこと」の重要性には気付かず、早速お邪魔させていただきました。
そのお宅は、地下2階、地上8階建ての(私の設計した)ビルの7階と8階を自宅として使っています。最上階は眺めも良く広いバルコニーがあるため、8階にLDKがあります。
当然のことですが来客者である私は8階のLDKに通されました。おいしそうなお茶が出され飲もうと湯飲みに手を出した時です。奥方から、「何か気がつきませんか?」と言われ・・・・・。

出されたお茶の表面に、確かに「波紋」が・・・・。
「これどうしたんですか?」と聞きましたが、これこそが、「お話したいこと」の内容でした。


それから食事までの数時間は、原因の特定に部屋中を走り回ることになりました。
部屋の隅々まで点検すると、不思議なことがわかりました。天井に埋め込まれたライトの周辺部分の天井に埃が付き、天井板が細かく振動していることがわかりました。
つまり、何らかの理由で空気が振動しているのです。
人間の耳には聞こえない非常に低周波の振動であることは間違いありません。そしてそれは時には強く、時には弱くなることもわかってきました。

さて、種明かしですが、原因は屋上に設置された大型の空調設備(室外装置)によるものでした。室外装置の中には、エンジン(都市ガスを燃料とするもの)とコンプレッサーが内蔵されている為、空調機器を使用すると室外機器は振動します。

ガスヒートポンプ式エアコンの仕組み

その振動が屋根に当たるコンクリート版(スラブと言います)を揺らし、そのコンクリート版の下の空気を振動させていたわけです。
これは丁度、太鼓の皮が振動するような感じですから、太鼓の中に住んでいるのと同じ感じになります。
太鼓の表面の皮は、面積が広くなると振動数が少なく波長が長くなってきますから、耳に聞こえないほどの低周波の振動になったと考えられます。
空調室外機が屋上に直接設置されていたことが原因ですから、その後、専門用語で「ゲタ」と呼ばれる鉄骨造の梁を渡して改修しました。

この低周波障害は、時には海を渡るとも言われ、対岸の工場から発生した低周波の音波で、住宅のガラスが「ガタガタ」揺れたなどの事例も有ります。

さて、これは設計者の問題でしょうか?それとも工事をした人の責任でしょうか?
責任の有無はともかく、4週間後には症状は改善しました。

食事は、奥方の手作りで、とてもおいしかったですよ!